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第1回 AI活用のススメ

著者:EMC エンジニア  企画・編集:ZEPエンジニアリング

● 高度かつ短期!今どきの電子機器開発はAIで乗りきる

品質の高いディジタル電子機器を設計するためには、伝送信号のひずみを抑えるSI対策(Signal Integrity)や電磁波ノイズに対する耐性強化策“EMC”が重要です。
最近は、コスト低減や軽薄短小化が求められることが増えているため、シールドやフィルタを安易に追加することはできません。プリント基板の配線技術だけで解決したいところです。

図1 AIで高品質なプリント基板を短期開発

高品質な基板設計において考慮すべきパラメータは、配線の長さ、幅、間隔、層構成などさまざまです。これまでは一部の熟練技術者が、これらの条件をバランスをとり最適化してきました。しかし経験や職人技では、最近の高度な電子機器の短期開発は難しくなりました。
そこで本稿ではAIの利用を提案します。
AIの実体は、コンピュータ上で動作するソフトウェアです。一般的なソフトウェアと大きく異なる点は、計算方法や判断基準を人間が定義するのでなく、コンピュータがデータから学習する点です(図1)。

● シミュレータで学習データを用意してトレーニング

AIは、TensorFlowやPyTorchといったソフトウェア・パッケージを使えば、誰でも簡単に利用できます。課題は、AIを学習する訓練データをどうやって準備するか、ということです(図2)。AIのアルゴリズムや予測対象にもよりますが、一般的には、数百~数万程度のデータが必要です。基板設計に必要な訓練データはインターネットにはあるはずもなく、自前で準備する必要があります。

図2 通常の計算処理と機械学習処理(回帰問題)

もし信号がひずまない配線を自動設計したければ、配線レイアウトと波形という訓練データを大量に用意して、AIを学習させなければなりません。この訓練データは、実験で求めるしかありません。実験は費用も手間もかかるので、集めることができる訓練データはせいぜい数十パターンでしょう。回路シミュレーションなら、たくさんの訓練データを短時間で用意し、AIをトレーニングすることができます。
基板設計者は、何十回もシミュレーションを繰り返して、配線レイアウトを最適化します。回路シミュレータに習得したベテラン設計者でも、制約条件を満たす設計値が見つけられらないことがあります。AIなら、配線パラメータの最適値が瞬時に導き出せます。また、設計者は、回路シミュレータの使い方を学ぶ必要もありません。

● 本連載の流れ

下記のとおり本シリーズでは、AIの基本から、EMCやSI(Signal Integrity)/PI(Power Integrity)に使えるAI用の訓練データの準備について解説します。具体的な事例として、配線情報から$S$パラメータを予測や目標とする規格値を満たす配線条件をAIで求めます。

第1話 AIの復習
第2話 基板設計に相応しい機械学習アルゴリズム
第3話 AIアルゴリズムと予測精度と時間
第4話 最適な差動配線を機械学習で設計する

■ 今さら聞けない!AIの復習から

● 誰でも最新のAIを利用できる時代

ChatGPT に代表されるように、AI(Artificial Intelligence)は急速に進歩しています。ChatGPTでは、自然言語で質問に対する回答が得られるだけでなく、画像やプログラムのソースコード生成が行え、データ分析も可能となりました。データサイエンティストやプログラマが要らなくなりそうな勢いです。
AIはすでに訓練が完了したものを利用する以外に、独自に機械(コンピュータ)を訓練(学習)することで、ChatGPTでも答えられないような難問を解くことが可能です。幸いにも、機械を訓練するアルゴリズムは広く公開されているだけでなく、誰でも利用できるように、モジュールで公開されています。これらのモジュールを読み込めば、最新のAI技術を簡単に利用できます。我々が準備するのは、訓練に必要なデータだけになります。何回かに分けて、実際に機械を訓練して設計に生かすところまで解説します。
ここでは、AIやディープ・ラーニング、機械学習とは何かを簡単に説明します。

● AI、機械学習、ディープ・ラーニング(深層学習)の位置づけ

今や、AIや生成AI等の文言を耳にしない日はありません。機械学習やディープ・ラーニングという言葉もたくさん耳にしてきました。
AIは人工知能とも言われますので、イメージとしては、人間のような知能を指すことは、容易に想像できると思います。実際にChatGPTは自然言語の指示で、プログラミングや画像生成、データ処理が可能で、まるで、人間相手に通常の言葉で指示を出せば、仕事をこなするので、人工知能と言っても差し支えありません。

図3 機械学習、ディープ・ラーニング(深層学習)の関係

機械学習やディープ・ラーニングは、AIと異なるのでしょうか?
さまざまな定義がありますが、図3 に示すようにAIを構成する要素として機械学習があり、その機械学習の一分野がディープ・ラーニングとなっています。
AIは、人が書いた文章(自然言語)をあたかも理解したように受け答えしますが、その中身は実は機械学習で構成されます。機械学習とは、多数のデータで機械を訓練することにより、画像データの分類や物理形状から応力や電磁界の予測を可能にします。後述しますが、それぞれ分類問題、回帰問題と言われます。

● 機械学習と通常の計算処理の違い

図4 に示す特性インピーダンスを計算する事例を、機械学習と通常の計算処理で比較してみます。

図4 通常の計算処理と機械学習(回帰問題)

通常の計算処理では、特性インピーダンスの計算式を定義して計算するか、偏微分方程式を数値解析で解きます。つまり、計算方法は、人間が定義する必要があります。
一方、機械学習は、計算方法の定義は不要で、入出力データを使い、コンピュータ(機械)を訓練します。これは、入力データから出力データが得られるように、内部の係数を調整する作業になります。図4 に示すように、機械学習のアルゴリズムは複数あります。ランダム・フォレストや勾配ブースティングは決定木を使ったアルゴリズムで訓練時間がニューラル・ネットワークと比較すると非常に短時間で完了します。ニューラル・ネットワークは、訓練時間が必要ですが、画像認識や自動運転、ChatGPTで使われる自然言語処理にも使われ、応用範囲が非常に広いです。
機械学習では、計算方法の定義や処理の記述は不要ですが、データを使って、機械を訓練する必要があります。また、訓練に必要なデータ数はアルゴリズムによりますが、最低でも数百~数千は必要です。また、機械を訓練後、未知データに対して上手く予測できるかを確認するためのテスト用のデータの準備も必要です。

項目通常の計算機械学習
計算方法の定義定義が必要定義は不要
複雑な物理現象数値解析が必要訓練データがあれば、物理的なメカニズムが分からなくても計算可能
計算時間数値解析では時間がかかる1秒以下の僅かな時間で計算可能
計算精度物理方程式が成り立つ範囲であれば高精度概ね正確であるが、外すこともある
短所•物理現象が分からないと計算できない
•数値解析は時間がかかる
•入出力データの関係がブラックボックス
•答えが外れる事がある
•多数の訓練データと訓練時間がかかる
長所物理方程式が分かれば、数値解析を使って高精度に計算可能物理現象が不明でも、入出力データがあり、機械を訓練できれば、どのような問題でも解ける

表1 計算処理と機械学習

しかし、一度、機械を訓練すれば、1秒未満の短時間で計算結果が得られます。したがって、数値解析の代替手段(代理モデルやサロゲート・モデル)としても利用でき、設計最適化にも利用できます。
表1 に通常の計算処理と機械学習に違いをまとめました。
通常の計算方法の長所は物理方程式がわかれば、高精度に計算できますが、逆に物理方程式がわかないと解けない事です。また、一般的に数値解析は計算時間がかかります。一方、機械学習は訓練データさえ準備できれば、物理方程式がわからなくも、計算可能な事です。これは、非常に重要な事であり、物理現象に限らず、社会現象(注;株価の変動や商品の売れ行き)の予測に利用でき、さまざまな現象の予測が可能になります。しかし、多数の訓練データが必要であり、アルゴリズムによりますが、訓練時間がかかります。また、予測が外れることもあります。

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