Vol.033 プリント基板の達人

2007/04/11

< 第1回 >
「試作」と「量産」で感じること

皆さん始めまして。このシリーズを担当させていただくことになりました
(有)実装彩科の斉藤と申します。
プリント基板の技術コンサルを担当しています。
詳しい自己紹介は紙面に限りがありますので、ご興味がある方は弊社web
http://www.jissosaika.net/ 業務実績等をご参照なさってください。

それでは早速、本題に入らせていただきたいと思います。
皆さん「試作」と「量産」ということにどのようなイメージをお持ちになり
ますか?

「試作」はわかり易いでよすよね。普通、イメージするのは2~3枚の基板を
とりあえず作って部品を実装してみて性能が出るかどうか確認してみる。
さて、「量産」はといいますと、何をもって量産というのでしょうか。
例えば、パソコンなどは1機種で月産数万台は作りますのでこのような機種は
わかり易いですよね。
しかし、工業製品の場合は月産20台しか生産しないものでもその会社にとって
は「量産」という扱いになります。
単純に物量だけでは「試作」と「量産」は分けられないことになりますね。

この「試作」と「量産」で、プリント基板に要求されるものは何だとお思いに
なりますか?
話を進める前に「試作」という言葉についてもう少し詳しく見てみましょう。
「機能試作」、「製品試作」、「量産試作」という言葉があります。
0次試作とか、1次試作、2次試作とか呼ぶ人もいます。

「機能試作」は設計者のアイディアでとりあえず、部品を回路図のとおりに
つないでみる。
設計部門の実験室に転がっているユニバーサル基板に部品を手はんだ付し、
線材でつなぐというレベルです。表面実装部品も手はんだ付し「ゴテゴテの
シロモノ」が出来ます。接続の信頼性は全く眼中にありません。
この試作では全ての回路の妥当性を検証するのでなく、回路モジュールごと、
ICの性能確認のための最小限の回路というケースが多いです。

P板.comさんに一寸凝ったユニバーサル基板を発注なさっているユーザの
方も沢山いらっしゃると思います。

次に、「製品試作」ですが、この段階では基板の外形寸法が製品のシャーシ
寸法から決まり、実際にプリント基板の設計基準に則って実装設計が行われ
ます。
P板.comさんで無償配布されているCADソフトを利用されている方も沢山おら
れると思います。
「製品試作」では回路規模にもよりますが、その1、その2、その3と何段階か
に分けることもあります。
製品の生産量が50~100台以下の場合はこの段階の試作で完了することが
多いです。

しかし、月産、数千~数万台の製品はさらに、「量産試作」を行うことが多い
です。
この段階での試作は、本番第1ロットと全く同じ実装設備を使用してアセン
ブリし、性能評価、製造ラインのハンドリングのチェック等々まで行います。
はんだ付けした結果、特定の部分のみはんだブリッジが起こる場合、現物合わ
せでランドの形状を変えたり、部品の定数を変えたり微妙な修正を加えます。

このように見ると、「試作」に大変長い期間がかかるように思えるかも知れま
せん。
事実、25年位前はそうでした。
しかし、今日では製品開発期間を短縮することでの競争優位性が重要視される
のと、CADに接続される様々なシュミレーション環境が大幅に発達したため、
製品試作(その1)位までは実際にものを作らなくても評価できるようになり
ました。
しかも、高周波領域を扱う製品では、手はんだ付のモックアップレベルでは
全く性能を評価できなくなっています。

さて、「試作」と「量産」の違いに話を戻しましょう。
「量産」に求められるものは、物量にかかわらず、様々な試作で条件出しした
内容で安定して全く同じものが作れるかということです。
プリント基板にも全く同じことが言えます。
この「安定して全く同じものが作れる」というものがクセモノです。
物量が多くなるに比例してばらつきの要因を取り込み易くなります。
即ち、品質のばらつきが大きくなるということです。
本来、ものを作る以上、ある一定の不良率が存在するので、発注量が少ない
場合は基板の製造不良に遭遇する確率は低いのですが、納入数量が100枚
位からはボチボチ不良が混入する状況になります。
どの位の量から危険かというとまさしく、基板メーカの実力次第ということに
なります。

ところで、製品試作(その1)位までは、とりあえず、形にするという時間短縮
が最大に要求されるので、基板の作り方も様々で、ややもすると形状見本の
基板を作るメーカもあればそうではなく、1枚からしっかりした品質の基板を作
るメーカもあります。
ユーザとしては、この見極めが大切になります。
それともう一つ、もっと大切なことがあります。
自身が設計されている製品の製品寿命が幾らでどんな環境で使用されるのか。
よって、どの位の信頼性をプリント板に求めるのかを見極めることです。
決して、オーバースペックにする必要はありません。コストと品質のバランス
が重要です。

これまで、お話ししたことからキーポイントになることは「試作」と「量産」
では物量にかかわらず、製品試作(その2)あたりから量産試作(製品によっ
ては省略)第1ロット間の安定性がスムーズな製品立ち上げにおいて非常に
重要になります。
即ち、プリント基板ではこの間で基板メーカを変更しないことが大切です。 
その理由は様々な要因がありますが、次回以降にさせていただくことにして、
さらに、色々な切り口からお話しをしていきたいと思います。 

現在、お話ししようとしている内容は次のようなことを予定しています。
第1回 はじめに 「試作」と「量産」で感じること
第2回 基板設計、パターンの引き回し
    ~アナログとデジタル、高周波、シミュレーション関連~
第3回  フィルム原版、次工具関連
     ~ワークサイズとデコレーション、スケーリングファクタ
第4回  生産計画と製造設備の規模 ~作業者の技能~
第5回  基板製造プロセス ~試作と量産設備の違い~ 
第6回  検査、出荷関連 ~検査設備の性能~
第7回  品質保証関連 ~基板メーカの総合的技術力~
第8回  セットメーカでの対応 ~試作はんだ付から量産へのつながり~
第9回 海外基板メーカについて

それでは、読者の皆様方、今後ともよろしくお願い致します。