Vol.035 プリント基板の達人

2007/05/17

< 第3回 >
基板設計・製造でのワークサイズについて

皆さん。こんにちは。(有)実装彩科の斉藤です。
今回は基板設計・製造において、一寸裏方であるけれども大事な存在である
ワークサイズについてお話したいと思います。

ワークサイズ(WS)ということばを聞いたことがありますでしょうか。
皆さんが発注される基板の外形寸法が例えば180mm×230mmだったとします。
プリント基板の製造は初めからこの大きさできっちり作られているのではなく
て、製品サイズの回りに20~30mm位の余白があり、上記の製品外形寸法では、
200mm×250mmとなります。この余白を含めた寸法のことをWSといいます。

なぜ、WSというかといえば、このサイズでプリント基板の製造の"仕事"を
させるという意味で呼んでいます。WSはある法則に基づいて幾つかの大きさ
が決まっています。

プリント基板の最初のスタート材料は銅張り積層板で、1000mm×1000mmと
1000mm×1200mmの2種類の大きさが規格で決まっています。
ここから、長方形になるように幾つか裁断して、例えば330mm×400mm、
400mm×500mm、500mm×600mmなどの大きさにします。

先ほどの200mm×250mmのWSで製品基板を1枚1枚作るのは効率が悪いので、
WSの中に同種多面付にして何枚かをセットにすることが多いです。
プリント基板の製造には色々な治具、キャリアを使うため、WSの大きさを
数通りに標準化することで生産効率を上げることが出来ます。

ここでWSについてもう1つ重要なことをお話します。それはコストです。
冒頭の事例で、製品サイズが仮に180mm×230mm より20mm位大きかったと
しましょう。すると200mm×250mmのWSには入らなくなり、もう1つ上の寸法
のWSを使うことになるために最後に破棄する部分が多くなりコストは高く
なります。よって、製品基板の寸法を決めるときは一応、WSを意識しておく
と良いでしょう。
量産品ものでコストダウン要請が厳しいものは一寸したテクニックを使うこと
があります。
銅張り積層板は1000mm×1000mmと1000mm×1200mmの2種類の大きさが規格で
決まっていると説明いたしましたが、実は誤差が20mm程度認められています。
銅張り積層板は大体プラス公差側に出来ているので、この公差分も使ってWS
寸法を決めている基板メーカもあります。

このWSに対して、製品領域をどの大きさにするか、つまり余白の大きさが幾ら
であるか、あるいは、同種多面付したとき製品と製品の間の間隔寸法を幾らに
するかといったことは実はプリント基板メーカの中では重要機密事項であり、
ノウハウになっています。

WSの余白の部分に基板を作る上で色々な製造装置にセットするためのガイド穴
であるとか、A面とB面を合わせるための合わせマーク、内層と外層の位置
あわせをするためのピン穴、あるいはX線装置を適用するためのマーク、
信頼性データを取るためのテストクーポンなど様々なものがずらっと並びます。
これらのものを総合して「デコレーション」と呼んでいます。
 
単純に言うとデコレーションが複雑な基板メーカほど、技術力は高いと一般的
には考えて良いです。(最近ではシンプルでもきちんとものが作れる装置も
あるので一概には言い切れなくはなってきています)。
ですので、デコレーションの仕様を見ればどんな装置で基板を作っているか、
どんな品質管理をしているかなど大雑把な類推が出来ます。
 
例えば、合わせマークの仕様を1つとっても、単純に同心円の丸と十文字
マークを組み合わせた古風なものから、ネガでもポジでも使えるように工夫
したもの、手動でも自動機でも両方使えるものなど、生産技術的に色々知恵
が詰まっています。

さらに品質管理面でも非常に重要な役割をしています。ドリルの管理に
ついても役目があります。ひとつのプリント基板には大体10から20種類位の
ドリル径が用いられています。
ドリルも穴あけの途中で折れることがあるので穴あけの最初と最後に穴径ごと
に確認の穴をあける仕様にしておきます。
10種類の穴があったとすると、穴径ごとに10個の穴が並んでいます。
製品領域に対して、最初と最後に穴あけするので2列並びます。
もし、最後の列のどこかの穴があいていなかったとすると、ある径のドリル
がどこかで折れたことが分かります。また、のちにこの穴をマイクロセク
ションして穴の品質を確認することも出来ます。

また、最近では伝送スピードが早くなっているので伝送線路のインピーダンス
コントロールをしないとならないものがあります。主に、ライン幅の精度と
層間の精度で決まりますが、実際にはデコレーション部にテストパターンを
設けて実際に測定してみないと分からなく全数検査となります。

まだまだデコレーションに関連するノウハウはあります。
WSの外周から製品部までの寸法、つまり余白の部分が少ないほど一般的にその
基板メーカの実力は高いといえます。
なぜならば、一般的な基板の製法は、先ず全体に銅めっきを付けてから不要な
部分をエッチングで除去する方法です(サブトラクティブ法)。

めっきは端部効果という性質があり、WSのコーナ部、板端に近いほどめっきが
厚く付くという性質があります。
そのために、この厚く付いた部分まで製品領域にしてしまうと、パターン形成
のエッチング時に歩留まりが低下するので余白としている訳です。
この理由からWSの外周から製品部までの寸法は大体20mm位のメーカが多いの
ですが、場合によっては7mmなどと大変小さい寸法を実現している基板メーカ
があります。

これはめっきがばらつかないような高性能めっき装置を装置メーカと協同開発
したりします。この外周からの余白寸法が小さく、なおかつ、WS寸法が
500mm×600mmと最大級の寸法を用いている基板メーカは非常に高い技術を持
っていることになります。

日本国内でこの技術を持っている基板メーカ数は恐らく10社に及ばないと
筆者は推定いたしますが、海外、特に中国の大手基板メーカはこれが当たり前
になっています。筆者もある中国基板大手メーカの支援をした経験があります。

WSが大きいということは生産性が高まる反面、技術的には難度が高まります。
プリント基板は有機材料で出来ているため寸法収縮があります。
WSが大きいほど収縮の絶対量が大きくなるのでフィルム原版の合わせ精度の
確保が難しくなります。
そのために、収縮量に合わせてフィルム原版を伸ばしたり縮めたりして補正
します。この補正量のことを「スケーリングファクタ」と呼んでいます。

一般的にスケーリングファクタはWSの中心を原点として、そこから+何%、
-何%と数値を決めます。フィルム原版の作成ではその補正値を反映して
作画します。
スケーリングファクタは実験によりあらかじめ決めている基板メーカも
あれば、WSに設けた測定基準間の寸法を測定してロット毎にスケーリング
ファクタを求め、都度、フィルムを作りなおしているメーカもあります。

フィルム原版は、パターン形成時、ソルダレジスト形成時に用います。
前者は上記で説明した方法で補正値を求めれば良いですが、後者はすでに
パターンができていて、部分的にWS内の残銅率が異なるため板が反り、WS内で
収縮量が違うために補正値が基板の各部で微妙に違い苦労する場合があります。
また、前者でもコンフォーマル法で製造するビルトアップ基板の場合も同様に
苦労することがあります。
最外層はレーザビアをあけた後でビアの位置に合わせてパターン形成を行ない
ます。この段階ではすでに色々な工程で熱がかかっているためにやはり部分的
に収縮量が異なるからです。

最近多くなってきた直接描画装置を用いることで問題を解消できる場合があり
ます。
ある機種の場合、WSを幾つかのブロックに分け、ブロック毎に補正値を設定し、
ほとんど現物合わせでパターン形成ができるようになっています。

いかがでしたでしょうか。プリント基板製造でのワークサイズ。結構地味では
ありますが色々なノウハウが詰まっている存在です。
次回は一寸趣きをかえて、プリント基板を製造いるための生産計画についてお話す
る予定でいます。