Vol.036 プリント基板の達人

2007/05/31

< 第4回 >
試作が短納期で作れるからくり

皆さん。こんにちは。(有)実装彩科の斉藤です。
前回はワークサイズについてお話しいたしました。
いかがでしたでしょうか。今回は、なぜ、試作は短い日程で基板を製造で
きるのか、そのからくりについてご説明したいと思います。話の中にはまた
またワークサイズ(WS)が登場します。

さて、試作の製作枚数について確認したいと思います。もちろん1枚のみ
基板を作る場合もありますが、5~6枚位が主流で、多くても20枚位ではない
でしょうか。この位の枚数を前提に以下話を進めます。

試作を短納期で製造できるようにする手段は幾つもありますが、カテゴリ別
に整理すると次のようになります。

① 物量自体に関係すること(各工程間の段取り)
② 生産管理の方法(ものの流し方)
③ 生産準備(治具類の整備)
④ 生産設備の能力
⑤ 作業者の技能

先ず、①の物量自体にまつわること(各工程間の段取り)から
ご説明いたします。
ごく一般的な多層基板の製造工程について復習してみましょう。
製造工程は各駅停車の駅のように見ると150~200駅ありますが、
新幹線のぞみ停車駅的に見ると次のようになります。即ち、

内層パターン形成⇒中間検査⇒積層前処理⇒レイアップ・積層プレス⇒
NC穴あけ⇒パネルめっき⇒外層パターン形成⇒中間検査⇒ソルダレジスト⇒
シルク印刷⇒表面処理⇒外形加工⇒最終検査

この工程にロットサイズ3枚(WS)の試作と50枚(WS)の量産
を投入する場合で比較しましょう。


試作は単純に製作枚数が少ないので、各工程の合計加工時間が少ないと
いうことは自明です。量産は加工製作枚数に加工時間がリンクするので、
特に、同一工程での個別加工設備の所有台数が大きくものを言います。
例えば、多層プレス機、NC穴あけ機(スピンドルの軸数)、露光機、
スクリーン印刷機、電気チェッカ、NCルータなどです。

それと、次工程に進むときはロットの最後が加工されるまで先頭は待って
いますので通常はこの待ち時間が全工程の製作期間に大きく占めます。
この待ち時間が最小になるように設備能力のバランス設計をする必要が
あり、どのようなものの流し方をすれば最適になるかという検討が必要
になります。

そこで、②の生産管理の方法(ものの流し方)が重要になります。
ロットの大きさが常に一定の数量になる投入方法と、それぞれのロットの
大きさが違う場合では単位時間当たりの生産数量に差が出てきます。

これは列車の運転ダイヤを連想すると分かりやすいです。通勤時間帯には
特急、急行、準急、普通など種別が違う列車を混ぜることは避け、せいぜい、
快速と普通など列車の種類を減らせていることに気がついたことがあります
でしょうか。
違う種類の列車を混ぜると、スピードが違うので単位時間当たりに運転
できる本数が少なくなってしまいます。この列車の種類に相当するのが
WSの管理枚数です。
ダイヤグラムの表示ではA駅からB駅への移動を「スジ」という線で示し
ます。このスジが平行になるように運転ダイヤを組めば単位時間当たりに
最も多く列車を走らせることが出来ます。

プリント基板の生産方式もこれと全く同じことが言えます。生産システムに
このようダイヤを組めば投入時に即、いつ仕上がるかが一目で分かるように
なります。

試作の場合は例えばWS数3枚を管理単位とすると、例えばWS数5枚に
相当する注文があった場合、ロット数2としてラインに投入することに
なります。

ラインの生産能力はWS数3枚を各工程が同じ時間で作れるような設備
の台数(能力)の工場になります。 WS数50枚以上の量産になった場合
は設備台数も多くなりますし、ライン物の設備はコンベアスピードが速く
なるので大きな設備となり、工場の敷地面積がそれに比例して大きくなり
ます。

次に③の生産準備(治具類の整備)に話を移しましょう。
各工程では生産設備に条件設定をするための段取り時間が必要になります。
また、治具に相当するフィルム原版を作らねばならません。これが必要
なのは、内層、外層パターン形成、ソルダレジスト、シルク印刷になり
ます。その他NC穴あけや電気チェッカのデータも準備しないとなりません。

受注を受けて、実際にものを投入するまで如何に早くこれらの準備を完了
させるかが、全体の納期を短縮する鍵にもなります。
プリント基板の製造には原則としてこれらの治具が一点一点必要になるので
これらを管理するだけでも大変です。

そこで、最近では直接描画装置というものが登場し、フィルム原版を作成
しなくとも直接パターン形成が出来てしまうようになっています。この設備
はまだまだ高価な装置ですが、試作を専門にしているメーカはほとんど導入
しています。

ここで、直接描画装置を使った場合の必殺技をお教えしましょう。
前回、WSには通常、同種多面付して効率を上げるとお話しましたが、覚え
ておられるでしょうか。直接描画装置を使えば、同種多面続けでなく、A社
とB社の違ったパターンを多面付することが出来ます。WSの有効面積に
入る大きさであれば、何種類でも入れることが出来ます。組み合わせた枚数
分だけ生産効率が上がります。フィルムを作らないからできる技です。

もしWSが大きければ、それだけ効率が上がる訳ですが、大きい程各部の
合わせ精度を確保するのが難しくなります。そこで、試作専門のメーカでは
WSは量産メーカよりも小さくして、あまり気を使わなくてもものを作れる
ようにしているのが一般的です。

また、WSの種類も2つ位に限定しているところが多いです。場合によっては
余白(捨てる部分)が多くなり地球環境には優しくないですが、段取り部分の
効率を上げることを優先しています。
捨てる部分が多いのでコストも高めになります。

一方、A社とB社の製品を多面付けするとは書きましたが、実はそう簡単には
いきません。なぜなら、A社とB社のパターン密度が違うからです。
同じレベルの組み合わせはOKです。ライン幅、間隙、穴径が違うものを組み合
わせると、一般的に歩留まりが落ちます。しかし、歩留まりを落ちないように
もの作りを改善するところにノウハウの集積があります。

この基板の場合は、余白はここまでにしておこうとか、ここにダミーパターン
を入れておこうかというようなことです。
したがって、試作はWSを一定にしてパット作ってしまう大味なメーカと、
それに留まらず技術者がいて色々工夫改善する会社が存在します。

さて、次に④生産設備の能力に話を移しましょう。
早く基板を作るには道具、生産設備の能力に大きく影響されます。例えば急行
停車駅に相当する多層プレス後の「NC基準穴あけ」工程。少し昔は手作業で
内層の積層ターゲットマークをざぐり加工して基準穴あけ機にセットして
穴あけするという方法でしたが、現在ではX線を使用してざぐり加工しなくて
も自動で基準穴あけができる小規模な設備があります。

また、快速停車駅に相当する「NC基準穴あけ」工程の前の「耳きり、端面
研磨」工程。これは、多層プレス後にはみ出た樹脂を切り取り、WSの端面を
研磨してバリやゴミが出ないようにする工程で、あとのめっき工程での異物の
巻き込み防止に重要な工程です。
この工程も従来は手作業でやっていましたが、生産規模に合わせて色々な設備
があります。
上記の説明はほんの一例ですが、現在では生産規模に合わせて色々な設備が
あり各基板メーカは自社の環境に合わせて納期短縮、品質が良くなるように
色々使い分けています。

さて、最後に⑤作業者の技能についてお話します。

実際に現場で作業をしていただく人ですが、大きくは、職人さんと単一作業者
集団に分かれます。前者は試作を主体にしているかなり小規模な基板メーカに
多く、一人で何工程も担当して各工程を自分で基板を持ち回りして基板を作っ
てしまうスタイルです。後者は、量産工場に多く、各工程で作業をする人を
固定しているスタイルです。
前者は相当融通が効くもの作りができ、職人の腕によるので今まで作ったこと
のないような仕様の基板が作れてしまう一方、ISO的なドキュメントの整備
は遅れがちになります。後者は、その逆で、社内ルールで決めたとおりに基板
をルーチン的に製造するイメージです。したがって、個々の作業者は基板の
細かい知識はうすいので、その工程を纏めているリーダの資質が基板の品質を
決めることになります。台湾とか中国の量産基板メーカに多いスタイルです。

国内では作業者の技能を定量的に認定するために、JPCA(社団法人日本電子
回路工業会)が主宰する「技能士」認定制度があります。基板メーカによっては
このライセンスを職級や給与に反映しているところもあります。

いかかでしたでしょうか。今回は基板の生産方式にスポットをあててお話しま
した。
次回は基板製造プロセスと設備の規模に付いてもう少し詳しくお話してみたい
と思います。