Vol.037 プリント基板の達人 特集『試作と量産の違いについて~』

2007/06/14

< 第5回 >
プリント基板製造設備の苦労話

皆さん。こんにちは。(有)実装彩科の斉藤です。
前回はなぜ試作が早く作れるかについてそのからくりについてお話いたし
ました。その中で、生産設備の能力が出てきましたが、今回はもう少し
設備にスポットを当てて掘り下げてみたいと思います。

先ず、一般的な多層基板の製造工程について新幹線のぞみ停車駅的に見ると
次のようになると書きましたが覚えておられるでしょうか。

内層パターン形成⇒中間検査⇒積層前処理⇒レイアップ・積層プレス⇒
NC穴あけ⇒パネルめっき⇒外層パターン形成⇒中間検査⇒ソルダレジスト⇒
シルク印刷⇒表面処理⇒外形加工⇒最終検査

この製造工程に対して構造的に見て多層基板の一種かあるいは似ているプリン
ト基板はどのようなものがあるでしょうか。

① 多層基板ではあるが、ビルトアップ基板
② 多層基板ではあるが、全層一括積層基板(ALIVH, B2it など)
③ 多層基板ではあるが、ICパッケージ用基板(サブストレートとも言う)
④ フレキシブル基板(FPC)
⑤ フレキシブル基板(FPC)の一種ではあるがTAB

上記の①~⑤の基板はかなり姿、形が違うのですが、製造工程をざっくばらん
に見ると、新幹線のぞみ停車駅的には同じです。よって製造する設備の原理は
大体同じなのですが、設備自体の外観は結構違います。

それではなぜ違うかを考えて見ましょう。

先ず、生産設備に投入する材料の形が違います。
大きくはシート状(枚葉)のものか、ロールトゥロール(RTR)かに分かれます。
ここで前者は①~④、後者は⑤となります。また、シート状(枚葉)と書くと
薄いものをイメージしますが、ここでは③、④が該当することにします。
①、②はシートではありますが、通常0.6~2.0mm程度の厚さがあるので
分類のしかたは同一ではありませんがワークサイズ(WS)と呼ぶことにして
おきましょう。

シート状かWS、あるいはRTRか、プリント基板全体の生産量から見てみると
ほとんどが前者になり、このグループでは①~④の分類は違っても強引に設備
を共用することが可能な場合がありますが、⑤はあり得ません。
設備メーカもこれらのグループに対して一線を引いた形になっています。
言い方を換えると⑤の設備についてカタログ品はほとんどなく、基板メーカが
独自のノウハウで設備メーカに発注、あるいは協同開発しています。よって、
展示会でも実物をほとんど目にすることが出来ません。そこで、今回は①~④
の設備にターゲットを絞ることにします。

①~④の分類で重要になるファクタが「板厚」です。
25年位前まではプリント基板の板厚といえば、1.6mmが標準でした。しかし、
現在では②の内層コアあるいは③のサブストレートの厚みは0.1mmが当たり前
で、最も薄いものは30μm、40μmのものまであるのではないでしょうか。
もはやシートというよりフイルムです。

また、設備に投入する材料あるいは基板の大きさもかなり小さく、50mm角位の
小さいものまであります。ここで想像していただきたいのですが、こういった
ものをコンベア的な設備で流すとしたらどういうことになるでしょうか。

昔はコンベアのロールピッチは70mm位の設備が主流でした。しかし、今日では
こんな大きなピッチでは基板は落ちてしまいますし、薄いものも腰がないので
次のロールまで届かず下側にいってしまいます。そこで、ロールの配置の仕方
に先ずノウハウがあります。エッチング機など薬品をスプレーする設備では、
特に下側面がロール(正確にはロールについているスターホイル)の影で薬品
が当たらないとキチンとエッチングできないことになるのでこのあたりについ
てかなりノウハウがあります。

また、30μm、40μmの極薄のものをまっすぐに搬送するだけでも大変です。
ほんの少しでもロールの軸に偏心があると基板(WS)は直進しません。
軸受けの構造や搬送の駆動方式など最近の装置は様々な改良が加えられています。
駆動ロール1本だけで3万円はしますので、設備には何百本とロールが使われて
いるのでそれだけでも大変な金額になります。
ロールの生産はステンレス棒の切断から始まり、ツルツルの曲面にビス止め穴の
タップを切りといった職人技で、ほとんど手加工で作られています。

コンベアものは薬品を入れることが多いのですが、例えば急行停車駅に相当す
るドライフィルム(DF)ラミネートの前の化学研磨処理ライン。DFの密着を
上げるために銅表面に細かな凹凸を付けるのですが、薬品は通常硫酸と過酸化
水素水の混合物です。単純にこれらの薬品を銅表面に噴霧し、空気に触れると
すぐに酸化して変色してしまいます。この変色は最後まで悪影響を及ぼすので、
こういった設備ではチャンバーとチャンバーの繋ぎ(渡り)の部分でどうやっ
て基板(WS)を酸化させないようにするかなど設備メーカと薬品メーカが
協力して独自のノウハウを盛り込んでいます。

パネルめっき工程は特急停車駅に相当します。めっき槽をずらっと並べたライ
ンがあって、前処理から化学銅めっき、電気めっきとキャリアで搬送するタイ
プがまだ主流ではありますが、めっき厚のばらつきの低減と生産効率向上を
目的としてこの工程もコンベア方式のものが開発され、先進的な工場に導入
されています。
搬送はメリーゴーランドのようにWSを垂直方向に動かすものと、水平に動かす
ものがあります。
ビルトアップ基板でレーザ穴あけした部分を銅めっきで埋めてしまうタイプの
フィルドビアでは、基板を垂直方向でメリーゴーランド式に搬送する形式が
最近では流行しています。

水平タイプのめっきラインではめっき電極はWSが移動するとともに常にどこか
の部分と接触していないとトラブルになるのですが、結構このあたりの処置が
難しくめっき設備メーカのノウハウになっています。
海外の大手基板メーカに出向くと、ほとんど水平タイプのめっきラインが
用いられています。

さて、今まではライン物、つまり湿式(水もの)の話でしたが、今度は個別
装置で乾きものの設備に話を移しましょう。

個別装置の代表格はNC穴あけ機でしょうか。海外の大手基板メーカに行くと
1台何千万円もする穴あけ機がずらっと200~300台並んでいることを目にしま
す。
一方、試作を含めた少量多品種では如何に1軸あたりが別々の作業をしてくれ
るかが効率的に重要になります。2軸程度の高性能な穴あけ機が数台並んでい
て精度の高い生産管理をしているメーカを見かけます。

即ち、製品個々によって穴数は違うので、作業時間が異なります。
1つの作業が終わって次の作業に移行する時点の段取り時間を徹底的に短く
したい訳です。
そこで、先進的な工場では外段取りで、ある製品のあと、どの製品の作業を
すれば最短納期で作業を平準化できるかシミュレーションし、穴あけ機の
群管をしています。

穴あけのプログラムも昔はフロッピーディスク(その前の昔は紙テープ)で
装置に個々に手動で入力していましたが、先進工場では生産指示書について
いるバーコードをスキャンしただけで、ワンタッチでサーバからデータが
穴あけ機に送られてくる仕掛けになっています。

穴あけに似ているのが、外形加工や割り穴の加工に用いるNCルータです。
この装置も穴あけ機と同様な運用になっています。

大きな装置では多層プレスが次に上げられると思います。
多層プレスは、5段で500mm×600mmのWSを投入できる装置が一般的です。
この1段当たりにより多くのWSを投入するほど生産効率が上がる訳ですが、
その分品質のばらつきが大きくなる傾向にあります。しかし、プログラムは
PID制御というものを適用しており、PとIとDの係数を実験で最適チュー
ニングすることで、多数のWSを投入しても驚くほどばらつきのないプレス
作業をしているメーカがあります。

その一方で海外に目を向けると、プレスの熱板はWS 500mm×600mm を4枚並
べられる"バカでかい" プレスを持っている量産メーカがあります。
幅1000mmを越えるロール状の銅箔を引っ張りだし、その上にWSに切ったプリ
プレグを4枚分並べ、さらにコア層をポンポンポンと置き、またプリプレグを
置く。
次にロール状の銅箔を反対方向からプリプレグの上に被せ、これを何枚分か
繰り返してプレスに投入。プレスから出てきたあとは、何と、銅箔を手で
引きちぎって4分割のWSにするといった荒業で多層基板を作っているメーカ
があります。

このような作り方だと、1度のブレス(段取り)で100枚以上のWSのプレス
ができてしまい、海外での量産品は人件費が安いだけでなく、設備が大きい
ので量が多いものは安く出来てしまう訳です。

次に個別装置にはどんなものがあるでしょうか。露光機、直接描画装置、自動
外観検査機(AOI)、自動印刷機、電気チェッカなど様々なものがあります。
一つずつお話しているときりがありませんので、もし、リクエストをいただい
た場合は別の機会に譲るとして、付帯設備のお話を少しします。

プリント基板を作るには設備を動かすために、電気、給排水、吸気、局所排気、
バテション(間仕切り)等の付帯設備を整える必要があり、こちらも主要設備
の導入に合わせて工事が必要になります。一寸、大きな設備の導入になると、
各付帯設備の工事をどの順番でやるか、設備を垂直立上げするにはかなり綿密
な計画が必要になります。
例えば、新たな設備導入には必ず漏電遮断機の取付けが必要ですが、電流容量
によってその大きさがまちまちで分電盤に入りきらなくなったりします。
最悪は1次側の電流容量が足りなくなったりします。そうなると、本体の導入
よりも周辺の整備をする方が大変な時もあります。
また、床の耐荷重の確認が必要なときもあり、筆者は化学出身のはずなのに、
建築にも相当詳しくなりました。「毒食らわば皿まで」ということわざがあり
ますが、筆者の場合は「毒食らわば皿からテーブルまで」となってしまいまし
た。

また、設備搬入当日は色々な業者の方が現場に入り、かなりの人数になること
もあり、建屋の毀損防止、現場の安全管理も含めて相当神経を使います。

設備メーカが提携している重量機運搬会社の質に相当差がある場合があります。
トラックに積んでいる道具が結構貧弱な会社もあり、このような会社に当たる
とスケジュールどおりに搬入がはかどらず、電気、給排水、局所排気の
職人さんを遅くまで待たせることになります。
したがって、当たり前のようなことでも、工事日までにいちいち確認を取って
おくことが必要になります。

トラックに積んでいる搬入用の台車のキャスタが大きかったために、ギリギリ
数cmの攻防で搬入口に当たり立ち往生のようなことも起こります。こんな
失敗を次にしないようにチェックリストを充実させる必要かあります。

ところで、付帯設備の中で結構技術的に難しいものがあります。
それはクリーンルームです。
クリーンルームといえば、クラス100とか1000とか防塵性のみをイメージする方
が多いと思います。
しかし、実はクリーンルームは室内の温度と湿度もばらつかせないようにするこ
とも重要な機能なのですが、プリント基板の製造では室内に発熱や排気が必要な
設備(例えばオートカットラミネータなど)を入れることがあり、クリーン
ルームの設計が結構難しくなります。
なぜかというと、室内の空気を排気してしまうと、外からフレッシュエアを
入れる必要があり、このエアの除塵、温湿度コントロールを別途やる必要が
あります。
エアコンの中のヒータと冷却機を微妙に制御するのですが、非常にランニング
コストが掛かります。
さらにクリーンルームは試作用など小さいほどかえって設計が難しくなります。
時間当たりの換気回数という指標があり、排気しすぎると温湿度のコントロー
ルが不安定になるばかりでなく、高価なヘパフィルタもすぐに目詰まりを起こ
してしまいます。
しかし、排気しないと臭気がでて作業環境が悪くなります。即ち、バランス
設計が大変なのです。

ということで、プリント基板を作るには「小はミクロンから、大は建屋まで」と
何でも結構深い知識と経験が必要で大変な訳です。

それで、今回はこの位に留めておくことに致します。