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Vol.038 プリント基板の達人

2007/06/27

< 第6回 >
プリント基板検査関連の実態

皆さん。こんにちは。(有)実装彩科の斉藤です。
今回はプリント基板の検査にまつわる話をしてみたいと思います。

パターンとパターンがショートしたり断線したりしては回路が成り立たない
ので、設計したとおりにできているかを検査するというのは直観的に分かり
ますよね。

では、どんな検査項目があるのでしょうか。プリント基板を発注する側
(皆さん)にとっては、購入仕様書というものをメーカへ通知します。
もし、この通知がない場合は基板メーカ側から納入仕様書(製造仕様書)
というものを通知します。通常、仕様書の優先順位は購入側が第1位です。

P板.comさんでも次のwebに詳しい仕様が提示されています。
https://www.p-ban.com/product/spec.html

一般的にプリント基板は完全なカスタム商品なので、発注者側の購入仕様は
まちまちです。そのために、基板メーカの受注窓口では、自社の技術レベル
で対応出きるか否かを切り分けるのですが、通信販売形式ではそこまで対応
は難しいので発注者側の皆さんへは、自社の技術レベルは×××レベルです。
もし、よろしければご発注をお願いしますというスタンスを取っている会社
が多いです。

これを一般基板メーカと同等にやっていますと、人員面からコストアップに
つながり、なによりも短納期対応が難しくなってしまいます。

そうはいっても納入仕様書どおりのものはしっかりと作らねばならないので、
基板製造プロセスにおいて色々な検査をしています。
ここから先は、試作レベル、量産レベル同様な話として捉えてください。

ここで、大分おなじみになったと思いますが、一般的な多層基板の製造工程
について新幹線のぞみ停車駅的に見ると次のようになると書きましたがまた
示します。

内層パターン形成⇒中間検査⇒積層前処理⇒レイアップ・積層プレス⇒
NC穴あけ⇒パネルめっき⇒外層パターン形成⇒中間検査⇒ソルダレジスト
⇒シルク印刷⇒表面処理⇒外形加工⇒最終検査

ここで、検査と名が付く工程は3箇所あることが分かります。実は、最終
検査の中には電気導通検査と出荷外観検査がありますので、のぞみ停車駅的に
見れば基板製造工程の中で、検査は大きくは4箇所あると思ってください。

これらの検査はどのようにして行うかといいますと、パターン形成後の中間
検査工程(内層、外層)では人の目視で行います。パターンを見る時は
細かいので通常は10~20倍位の拡大鏡を併用し、その他自動外観検査機
(AOI)を使います。
どの位まで人間の目で見えるかというと、通常の作業では拡大鏡併用で
ライン幅/間隙が120μm/150μm位が限界でしょう。これより細かいものを
見ると、数枚ならば見られますが、すぐに目が疲れて、ひどくなると吐き気
をもよおします。

そこで、通常はAOIを用いることになります。AOIは15年位前からだんだん導入
されるようになりました。最初は昔のお金の感覚で1億円以上したと思います。
それが、最近では、遥かに性能が向上したにも関わらず、4千万円位で導入
できる機種もあります。すごい技術の進歩です。とは言っても、海外の量産
基板メーカに行くと、このような高級な装置がズラット何十台も並んでいる
のを見ると圧感されます。

AOIは検査の原理(方式)としては反射光方式と蛍光検出方式があります。
AOIが導入された当初は両者の比率は50%ずつ二分していたと思いますが、
最近では圧倒的に前者になっています。昔はライバル会社だったはずか、
合併してしまったという経緯があります。AOIの製造メーカはイスラエル製が
多いです。武器開発でソフトウェアの開発に強いということが関係している
かも知れません。

最終出荷検査工程では目視による人海戦術になっています。この検査工程では
断線、ショートだけでなく、ソルダレジスト・シルク印刷のずれ、にじみや、
見た目の綺麗さ、穴径や外形加工公差など数多い検査項目があります。
このような検査モードが違う検査を自動機で行うには至難の業でオールマイ
ティーの装置はまだ実在しません。それに対して、人間の目は一寸した色の
濃淡の違いなどを相当な感度で見分けることが出来ます。

しかし、未経験の人が突然基板の検査を明日からできるかというとそうは
行かず、密度の低いものからだんだん慣れることが必要で、製品を検査できる
ようになるまでは数ヶ月位は掛かります。中国では検査員の技術能力をクラス
分けして、帽子の色やユニフォームのデザインを変えたりしてモチベーション
を上げる工夫をしています。
もちろん、技術能力のクラスと賃金は直結していますし、見落としが重なると
罰金を課しているメーカもあります。この点では日本より厳しいと思われます。
人が沢山いるからできることかもしれません。

しかし、技術レベルが上がりすぎると、高い賃金で他の基板メーカへ転職
されてしまうので、マネージャーとしては微妙なコントロールを要求されます。

ところで、目視検査といえばパチンコの基板の話題がよく出ます。一般機器の
基板に比べとりわけ外観品質が厳しいことで有名です。特に、型式認定用の
基板にはほんの少しのキズ、ソルダレジスト、シルク印刷のにじみ・かすれ等
があってはならないことになっています。どうやら、パチンコの型式認定を
する機関がこの不具合で"出玉の確率が変わる恐れがある"とおっしゃって
いるらしいです?

さて、外観検査の話はこの位にして終わりにして、電気的接続の検査の話に
移りましょう。
電気的な検査はどのようにするかというと、早い話、回路のA点とB点の間を
テスタで測るのと同じです。
原理はテスタですが、回路ごとやっていたのでは日が暮れるので自動機で
対処します。
発注ロット数が100枚位のところで、自動機の方式が分かれます。フライング
プローブテスタか検査治具を用いるタイプかに分かれます。前者は15年前には
存在していましたが、米国製でやはり当時1億円近くしていたので、スーパー
コンピュータ用の基板などよほど高級な基板以外は適用することが出来ません
でした。しかし、今日ではこの装置も数千万円で導入できるようになり、
小ロット品を扱うメーカを中心に大変多く導入されることになりました。

筆者の経験では、セットメーカでインハウスの基板職場の責任者をやって
いましたが、ある日、目視検査の見逃しで不具合を出してしまいました。
工場長にこっぴどく怒られたのですが、怒られてもタダでは起きないと、
工場長や幹部の前で目視検査の限界を示すためにフライングプローブチェッカ
のデモンストレーションをやりました。
この演出が功を奏してめでたく装置の導入が出来たということがあります。

しかし、この話には尾ひれが付いていて、デモをお願いした装置メーカは
500km位離れたところに位置し、4トントラックに装置を乗せて遥ばる来て
もらったのは良かったものの、この営業部長さん4トントラックの運転は
不慣れで、工場内の建物に危うくトラックがブツカりそうになり、演出が
いっぺんに吹っ飛ぶやヒヤッとしたエピソードがあります。

検査治具方式は、ピンを基板のランドと接触させるのですが、基本格子
(用語:第2回を参照)にピンが剣山のように立っているユニバーサル
チェッカと、回路毎にピンを立てる専用チェッカがあります。
専用チェッカはピン数にもよりますが、100万円近くするものもあるので量産
機種用になります。最近はあまり見かけませんが、量産機種用にピンの
代わりに導電性ゴムを使ったタイプもあります。

このような検査治具方式の検査機は2ステップで検査を行います。検査すべき
回路にある試験電圧をかけます。
ステップ1では断線を見ます。
ある設定抵抗値よりも大きければ断線とみなします。
次にステップ2ではショートを見ます。
同様にある設定抵抗値よりも小さければショートとみなします。
この場合、判別値が500KΩ位に表示されるといわゆるグレーンゾーンとなって
しまい、個別に確認が必要になってしまいます。

そのため、試験電圧を高くかけられる程高機能な検査機とされています。
従来は12V,25V,40V印加でしたが、10年位前から250V、500V対応機なども
あります。

また、従来はパターンとパターンの間の絶縁性をチェックしていましたが、
最近のアルミ放熱基板では、銅パターンとアルミの間に介在する絶縁材の絶縁
特性を高い電圧をかけて検査するニーズが出てきています。
これは、自動車のパワーステアリングを従来の油圧からモータに移行するため
にアルミ放熱基板が用いられています。

さて、以上は基板製造工程の中で、新幹線のぞみ停車駅的な大きなところの
検査工程を見てきましたが、実は、急行停車駅的に見ると検査と名の付く
工程は多々あります。一般的に「工程内検査」と呼んでいるのがそれにあたり
ます。

例えば、NC穴あけが終われば穴数チェックがありますし、めっきが終われば
めっき厚の確認、現像が終われば現像後の目視検査という具合です。

さらに、ビルトアップ基板では内層コアの穴埋めがあり、穴埋め研磨後に穴の
周囲に樹脂がこびり付いていないかを確認します。また、特殊なB2it基板
であれば、銅箔上に印刷する銀バンプの高さなどを計測します。このように、
特殊な基板になる程検査も複雑になり、検査装置自体も市販のものがないため
装置メーカと協同開発になります。

一般的にはプリント基板を作るには、各社、品質管理工程図というものを
作成し、各工程にどんな検査をし、その検査データをどのように保管するかを
決めています。
たいていの品質管理工程図は表になっていて、工程ごとに適応する社内の基準
番号などが書き込まれています。

基板メーカと初めて取引する場合は、この書類を出してもらい、正しく管理が
なされているかを確認します。

ところで、検査工程については、先に新幹線のぞみ停車駅的に書きましたが、
最近、停車駅を変更することで大きく歩留まりを改善している事例があります。
それは従来、パターン形成後の検査は、エッチング後に中間検査をしていまし
たが、現像工程とエッチング工程の間の検査を強化する(停車駅を新設する)
ことで、大幅な品質改善に繋がっています。

なぜならば、エッチング後、断線が発見された場合は、補修を認めている
発注元もありますが大抵は破棄となります。ところが、現像後であれば、
ドライフィルムの補修で断線を免れることが出来ます。この方法によれば、
場合によればエッチング後の中間検査を省略し、なおかつ、歩留まりを上げる
ことができます。

昔は、ライン/間隙が広かったため、ドライフィルムの密着不良というモードが
ほとんどなかったため、古い職場のレイアウトは現像機とエッチング機は直結
しているケースが多いです。現像後に検査を入れれば歩留まりは上がるはずでも、
古くから操業している基板メーカではレイアウト変更が出来ないために苦慮
しています。その点、海外の大手基板メーカはレイアウトにゆとりを持たせて
あるので、良いと思うことはパッパッと改善しますので恐るべしということが
あります。

さて、最後に今までの話はプリント基板の生産に直結する話をしてきましたが、
検査という切り口ではまだまだあります。

プリント基板の製造には原則としてフィルム原版というものが必要になります。
このフィルム原版にキズなどの不具合があると全数不良になってしまうので、
このフィルム原版の検査も非常に重要になります。従来は目視検査でしたが、
最近ではAOIを用いて検査することが多くなりました。

原則としてと書いたのは、最近直接描画装置というものが出てきて、フィルム
原版が無くともドライフィルムに直接描画できるようになってきているから
です。しかし、この場合でも正しく描画されているか作業の1枚目、あるいは
抜取りで検査する必要はやはりあります。

フィルム原版に似たものとして、スクリーン版があります。これは、ソルダ
レジスト形成、シルク文字印刷に用います。同様にこられにキズなどがあると
やはり全数不良になってしまうので綿密な検査が必要になります。

以上、このように見てきますとプリント基板の製造においては実質50%位が
何らかの検査にかかっているといっても言いすぎではないでしょう。
プリント基板の製造は非常に手間がかかるものだと分かっていただけると
幸いです。

今回はこの位にして、次回は検査と似ていますが品質保証についてお話したい
と思います。