Vol.041 プリント基板の達人
< 第9回 >
海外基板メーカについて
皆さん。こんにちは。(有)実装彩科の斉藤です。
いよいよこのシーズも今回で最終回になってしまいました。今回はトピックス
の感じで海外の基板メーカの状況について簡単に触れてみたいと思います。
先ず、文献によれば2006年の世界全体のプリント基板の生産高は5.5兆円で、
第一位が中国の26%、第二位が日本の24%、第三位が台湾の16%、第四位が
韓国とアメリカの10%となっています。2005年までは日本が第一位だったの
ですが、2006年には遂に抜かれてしまいました。
中国では大小併せて1000社位のプリント基板製造に関わる会社があるといわ
れていますが、トップ25社がそのほとんどの生産量をまかなっているといわ
れています。そして、その14/25 が台湾系メーカです。かつて台湾のお家芸
であったパソコンの基板はほとんどが中国で作られています。
中国での基板メーカがある地域は、上海、蘇州、無錫の北の方と香港を物流の
拠点とした深せん、東莞、恵州、珠海など南の方と大きくは2箇所に分かれま
す。どちらかといえば北の方は様々な大学が多いので優秀な人材を集め易いと
いう理由でハイエンドの基板が作られ、南の方はより量産というスタイルにな
っています。
しかし、中国も現在では賃金上昇が激しくなり、作業者も著名メーカで働き、
少し良い地位になるとそれをバネに即ほかのメーカへ転職してしまうという
実態になっています。少しでも高い賃金であれば転職は当たり前で、ひどい場
合リーダが部下を丸ごと連れて他社へ移動してしまいます。昨日、200人やめ
たよ。と耳にするのも珍しくありません。また、税金が上がっており、逆に正
当な理由がない場合は解雇が出来ない法律ができるなど、さらに、電気、水
などインフラの確保や排水規制なども加わり、中国への進出は昔に比べかなり
難しくなっていると聞きます。
そこで、日本の大手基板メーカは中国の次はベトナムという流れが出来つつあ
ります。
筆者も台湾を皮切りにここ10年以上中国の様々なプリント基板メーカを訪問
し、また、最近では技術コンサルを担当したこともあります。
中国の話をしますと長くなりますので、先に他の国の話を致します。10年位
前まで台湾はパソコン基板の一大生産基地だったのですが、現在は様変わりし
てしてトップ5位までが半導体用パッケージ基板、通称サブレスレートを作っ
ています。ライン幅/スペース=30μm/30μm+ビルトアップの日本でも最先
端の部類に入る高密度実装基板です。その他、フレックスリジッドなど高付加
価値基板を多く手がけています。
台湾は国際空港がある桃園という地域に下請けも含めて数100社の何らかの
プリント基板の製造に関わる会社が集まっています。しかし、生産売上げは
トップ15位くらいまでの会社でそのほとんどが占められています。
韓国は幾つかの大財閥系の会社で量産は全て賄われています。その他はやはり
下請け的な小さなメーカが多く、中堅どころをカウントしても数十社程度では
ないでしょうか。しかし、展示会に行くと、プリント基板の技術は日本とほと
んど変らないといえる位に高い技術を持っていることがわかります。
ここ数年前までは、大手基板メーカが半導体パッケージ用基板、メモリーボー
ド用など高密度実装を売りに急速に拡大したのですが、最近のセットメーカか
らの猛烈なコストダウン要請を受けて伸び悩み、現在は様子見という状態にな
ってしまっています。
そして、アメリカですが、10年位前までは相当数の基板メーカがあったとい
われていますが、現在残っているのはハイエンドサーバ向け、軍事・航空機向
け、医療向けのみになってしまい主要メーカは10社にも満たないのではない
でしょうか。
アメリカで消費する基板のそのほとんどがやはり中国に行ってしまいました。
なぜ、ハイエンド向けの基板が残っているかというと、高速信号を取扱う非常
に難解な設計を出きる技術者がアメリカに多いということです。現在では、イ
ンドの設計会社ともタイアップして設計を進めていると聞きます。
私たちが日常使っているインターネットのプロバイダが所有しているサーバは、
ほとんどがアメリカ製であり、試作はアメリカ国内、量産は中国という形式に
なっています。
さて、このコラムは主に試作を担当している方々に多く読んでいただいている
と思うので、この先は、主に中国に焦点を当て、試作から量産品を中国で生産
する場合、何に注意すべきかについて幾つかご説明を致します。
まず、最初に注意しないとならないのが基材(CCL)の品質の違いです。台湾
製の大手CCLメーカの基材を適用する場合はまず心配がありませんが、中国
製の場合は注意が必要な場合があります。
特に、産業用途の製品で製品の設計寿命が7年以上の場合は、相当吟味した
評価が必要になります。FR-4基材と言っても似て非なる場合があります。
CCLはガラスクロスと樹脂と銅箔から出来ていますが、ガラスクロスの性能
が日本製と大幅に異なる場合が多いです。
「開繊材」といってガラスクロスの糸を適度に均等にばらして糸と糸の隙間を
微妙に広げ、そこに適度に樹脂を含浸させる技術を使った基材のことです。
日本ではあたり前ですが、中国ではこの技術にかなりの差があります。
「開繊材」といっているメーカでも日本のものと比べるとかなりの差がありま
す。
これは、ドリル穴あけ時に穴の凹凸や、糸(ヤーン)の引き抜きによりめっき
液が染み込み、絶縁劣化を引き起こす原因にもなります。さらに具合が悪いの
は糸(ヤーン)の一部が穴あけ品質が悪いためにほどけてしまい、その一部が
穴内に突き出た形でそのままめっきされるため、穴の中で局部的にめっき厚が
薄くなってしまうことがあります。そもそも、めっき物性も日本国内のものと
比べると差があるので、このような基板の製造品質だと、スルーホールの接続
信頼性が落ちることになり、産業機器製品に適用する場合は、かなり慎重に基
板メーカの評価が必要になります。
したがって、基板設計としてはここが重要なのですが、中国に量産基板を発注
する場合、めっき液の染み込みがある前提で内層クリアランスを大きくとって
おく必要があります。具体的には設計値で穴壁から0.4mm以上必要です。
日本国内の設計では出きるだけアースを強化したいというニーズから0.25mm
位にする場合もありますが、この設計値を用い中国で基板を作ると早ければ、
3年以内に不具合が生じることがあります。
もう一つ、設計面の話をしますとアニュアリング:(ランド径-穴径)/2の
値に注意が必要です。日本ではmin 0.1mmでOKですが、中国ではmin 0.15
mm必要です。たった0.05mmの攻防ですが、狭ピッチのPGAランド間に
スルーホールを配置できるか否かになるので、実装設計面では大きな制約にな
ります。
なぜこの制約があるかというと、基板製造プロセスの特急停車駅、露光工程の
前の前、急行停車駅に相当する「化学研磨」という工程があります。これは、
ドライフィルムの密着を上げることを目的としていますが、この化学研磨に
用いる高性能な薬品が中国では手に入りにくいからです(超量産メーカでは
使用しています)。そのために、アニュアリング0.1mmではエッチング時に
穴の周囲のランドを糊代として貼ってあるドライフィルムがテント破れを起こ
してしまうので基板を作れない訳です。
さらにもう一つ、意外かもしれませんが基板メーカにCADがありません。
即ち、作ることが専門で基板の設計はやらないことが多いです。したがって
日本だと量産試作が終わって、その結果、パターンを1本、2本動かしたいよ
うな時があると、FAXやメールで指示を出し、基板メーカで対応してもらえる
ことがありますが、中国ではこれが出来ません。
拡張ガーバフォーマット(RX-274X)で全てのデータを送りなおさねばならず
納期が日本よりも掛かることになります。通常の量産ではガーバデータが基板
メーカに到着してから量産で50m2位のロットサイズの場合、日本のアセンブ
リ工場に3週間で届けば早い方と言えるでしょう。
ざっと、海外基板メーカの状況に触れてみましたがいかがでしたでしょうか。
このコラムは「試作」と「量産」ということにスポットをあててお話してきま
した。もし、何かご質問がある場合はP板.comサポート窓口(info@p-ban.com)
の方に連絡してください
それでは皆さん長い間お付き合い下さりありがとうございました。これでこの
コラムを終了することに致します。