Vol.006 プリント基板の達人

2003/04/22

積層について

 4層以上の多層基板を製造する際のメインイベント的な工程が「積層
(せきそう)」です。積層とは、その字の通り「層を積み重ねる」工程です。
コア材にプリプレグと銅箔を積み重ね、新たな層を作り上げます。2層基板
には、積層工程はありません。多層板ならではの工程で、品質の安定した
多層基板を製造する為には、とても重要な工程です。

 サンドイッチを作る作業とよく似ています。もちろん基板ならではの要素・
ポイントがありますので、対比をしながら説明します。

 さっそく、玉子チーズサンドをつくりましょう。まず、玉子を茹でてから
つぶし、マヨネーズとあえます。これが、下ごしらえです。それをチーズで
両側からサンドして、さらにパンで挟み込みます。最後にお皿やまな板など
適度な重しを10分ほど上に乗せ、味をなじませます。

 基板の場合の下ごしらえは、内層のパターン形成と黒化処理です。黒化処理
を終え、プリプレグとなじみやすい状態にしてから、プリプレグで両側から
サンドして、さらに銅箔で挟み込みます。そしてサンドイッチで言う最後の
「適度な重しを乗せる工程」が「積層」となります。

 基板製造では、サンドイッチの積層にはない、2つの要素が必要です。
1つは『加熱』。もう一つは『真空』です。ではなぜこの2つの要素が必要なの
かを説明します。

『加熱』
 積層工程では、内層の銅箔とプリプレグ、そして外層の銅箔を密着させなく
てはなりません。密着させるには、通常ですと「接着剤」が必要です。しかし、
積層工程では「ボンド」のような接着剤は使用しません。ボンドの役目をする
のが、実はプリプレグ自身なのです。プリプレグは、ガラス繊維に樹脂をしみ
込ませたもので、120度くらいまで加熱すると樹脂がドロドロと溶けるのです。
この樹脂が銅箔の凸凹にしみ込み、銅箔とプリプレグを密着させるのです。

 その後さらに温度を170度くらいまで上げ、70分以上置くと、こんどは樹脂が
完全に硬化します。銅箔とも完全に密着します。その時に、プリプレグは接着剤
の役目を終え、今度は絶縁材の役目を担います。プリプレグにはボンドの役目と
絶縁材の二役あるのです。とても働き者です。

『真空』
 積層工程の最大のポイントが真空です。ここが「空気との戦い」です。
加熱されたプリプレグから樹脂が溶け出す時に、材料に含まれていた空気が
わき出てきます。この空気が銅箔との間に入ったままですと「ボイド」と
呼ばれる空洞ができてしまい、良い品質の基板ができません。

 そこで工場では、真空式ホットプレス機を使用します。基板をオーブンに
入れて、加熱しながら、適度な圧力で圧縮し、さらにオーブン内の空気を抜いて
「0気圧」の状態にします。すると、プリプレグなどから出てきた空気は、基板
内部から外部へと吸い出され、基板に空気が残る事を防ぐことができるのです。

  1つの気泡も許さない!空気を吸って吸って吸い尽くす!
  積層は、空気との戦いです。

 また、その日の湿度や気温、プリプレグの状態などで、プレスする力や
加熱温度の調整が大切です。さらに、層ズレの防止や異物の混入防止、最適な
黒化処理など、きめ細やかな下準備と配慮が「積層」には必要です。