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第3回 今さら聞けない!インピーダンスと特性インピーダンス
高速伝送路設計は「特性インピーダンス」の理解から
交流に対する電圧と電流の比を「インピーダンス」と言います。
直流電圧に対して、抵抗器は一定の抵抗値を示します。一方インダクタはほぼ0Ω、キャパシタは非常に高い抵抗値を示します。交流に対しては、抵抗器は同じく一定の抵抗値を示し、インダクタとキャパシタは周波数に応じた値をもちます。
長さのある配線やケーブル上では、進行する電圧波(または電流波)と反射する電圧波(または電流波)があり、それらが合成された電圧と電流の比がインピーダンスです。
特性インピーダンスは、反射波の影響を取り除いた電圧波と電流波の比です。これは、インピーダンスの特別な条件で測定したものであり、線路が本来もつ電圧と電流の比です。したがって、配線の断面構造や材料定数で一意に決まり、終端抵抗などの外部回路の影響は受けません。インピーダンスは、終端抵抗の影響や測定する位置で異なります。
信号が伝送路の終端に到達するより短い時間で変化するディジタル信号や高周波信号の立ち上がり波形は、この特性インピーダンスを使って計算します。
本稿では、高速ディジタル基板を設計するために欠かせない「特性インピーダンス」についてシミュレーションをしながら理解を深めます。
今さら聞けない!「抵抗」と「インピーダンス」そして「特性インピーダンス」
インピーダンスは直流と交流を問わない電圧と電流の比
インピーダンスとは、交流電圧と交流電流に対する比で、抵抗の概念を一般化したものです。交流、直流を問わず、利用できる便利な概念です。
抵抗器の場合、直流に対しては「抵抗値」または「インピーダンス」で表すことができますが、電圧と電流の位相差の有無に関わらず、交流電圧、交流電流に対してはインピーダンスで表すのが適切です。
電子回路は、純抵抗とキャパシタやインダクタの組み合せでできていて、交流信号(直流信号は0Hzの交流信号)を扱うため、電圧と電流は位相差をもつと考えるべきです。なお、直流抵抗を表すときは実数を使いますが、インピーダンスは振幅と位相をまとめて表現できる複素数を使います。
キャパシタとインダクタに加わる電圧と電流のようす
「抵抗器」に交流電圧を加えると、電流が最大(または最小)になると同時に、電圧も最大(最小)になります。キャパシタは、電圧が最大値(または最小値)のときに電流がゼロ、電流が最大値(または最小値)のときに電圧がゼロです。
図1と図2は、電圧、電流がゼロの状態から動作させて、しばらく時間が経過した定常状態での電圧と電流の関係を示しています。したがって、電圧が0Vでも時間を遡ると、負の電圧が加わっているため電流が流れます。
図1のキャパシタは両端の電圧状況によって電荷を電界エネルギとして内部に蓄えます。一方インダクタは、電流を「磁界」エネルギとしてインダクタ内部に蓄えます。
内部の電荷がゼロの場合は、キャパシタの両端電圧も0Vですが、電源側からは電荷を供給するため、最大の電流が流れます。電荷がキャパシタ内部に蓄えられると、キャパシタの両端電圧は上昇し、電源からキャパシタに向かう電荷が流れ難くなるため、電流は減り、電源電圧とキャパシタの両端で電圧が等しくなると電流は流れなくなります。電源電圧が下がると、キャパシタに蓄えられた電荷が電源側に流れて、再び電流として観測されます。
キャパシタは両端電圧が最大、最小で電流がゼロ、両端電圧がゼロで電流は最小と最大です。したがって、電圧に対して、電流の位相が90°進みます。
振幅と位相をもつ電圧と電流は「複素数」を使ってまとめて表します。オームの法則と同じ計算式を利用でき、計算がシンプルになります。
キャパシタもインダクタも、電圧と電流の間に位相差が存在し、電圧に対して電流の流れる向きはキャパシタとインダクタでは逆です。
図1と図2の値をそのまま利用すると、観測するタイミングによりインピーダンスは0〜無限大の値となり、一定値に決まりません。
図1と図2が示すように、キャパシタは電圧に対して電流が90°進み、インダクタは90°遅れます。
図1 キャパシタの電圧と電流の関係
図2 インダクタの電圧と電流の関係
特殊な条件下での「インピーダンス」が「特性インピーダンス」
特性インピーダンスも、インピーダンスと同じく電圧と電流の比を表します。断面構造が均一の配線やケーブルの特性インピーダンスは、どの位置で測っても値が同じです。
特性インピーダンスは、進行する電圧と電流の比、または後進(反射)する電圧と電流の比です。電圧源の出力負荷や、終端負荷での反射波による影響を取り除いて測定したインピーダンスとも言えます。反射が発生しない条件下での電圧と電流の比なので、原理的に(無損失線路の場合)、配線中の電圧と電流に位相差は生まれず、周波数の依存性もありません。実際の配線は、抵抗成分を含むため、わずかに位相差が発生し周波数依存もありますが無視できます。
一方インピーダンスは、単純な電圧と電流の比です。電圧源や終端負荷によって、反射する電圧(電流)波が発生します。その結果、進行する電圧波(電流波)と反射する電圧波(電流波)が存在するため、測定箇所により、電圧と電流の比は異なります。また周波数依存性ももちます。
特性インピーダンスは反射の起きない条件で測る
終端抵抗の違う2つの伝送線路でシミュレーション実験
図3と図4はどちらも、電気長が1nsのケーブルに電圧源と終端抵抗を接続した伝送路です。
図3は終端抵抗が10k$\Omega$、図4は50$\Omega$です。
電圧源は、振幅電圧が1V、500MHzの正弦波を発生します。出力抵抗は50$\Omega$です。ケーブルの絶縁材は空気、長さは30cm、特性インピーダンスは50$\Omega$です。
空気中の電磁波の伝搬速度は、$3 \times 10^8$m/sで、1nsで30cm進みます。
図3 特性インピーダンスと終端抵抗が異なるため、反射波(後進波)が発生する。その結果、進行波と後進波が合成され、観測位置により電圧、電流比が異なる。この比はインピーダンスであるが、特性インピーダンスではない
終端抵抗≠特性インピーダンスの場合
図3は、終端抵抗が10k$\Omega$です。
終端部で反射波が発生し、その反射波と進行波が合成されるので、測定位置によって電圧と電流の比は変化します。電圧源部では、進行波と反射波が同相で合成されます。$2\mathrm{V_{P-P}}$の電圧が発生し、電流は逆相で合成されて0.2mAです。その結果、電圧源部から見ると10k$\Omega$に見えます。
0.25ns(7.5cm)右側に移動した位置では、電圧は1.4V、電流は28mAで50$\Omega$です。電圧と電流は位相差があります。0.5ns(15cm)の位置では、電圧は逆相、電流は同相で合成されて、10mVと40mAとなり、0.25$\Omega$に見えます。
このように、進行波と反射波が存在する場合は、測定位置でインピーダンスが異った値として観測されます。
終端抵抗≠特性インピーダンスの場合
特性インピーダンスを測るときは、、図4に示すように、特性インピーダンスと同じ値の抵抗で終端します。
特性インピーダンスと終端抵抗を等しくすると、反射が発生しません。進行波の電圧と電流は常に同相になり、測定位置によらずどこでも50$\Omega$一定値です。
図4 特性インピーダンスと終端抵抗が同じ値となるため、反射波(後進波)が発生しない。その結果、配線のどの位置からみても電圧と電流の比は一定になる。この比はインピーダンスでもあるが、特別に特性インピーダンスと言う。500MHz波長は空気中で0.6m。電磁波は1nsで0.3m進む。電気長が1nsの線路では半波長の信号が存在する
配線の形状と特性インピーダンス
広い配線は特性インピーダンスが低く、狭い配線は高い
特性インピーダンスは、線路に接続される負荷の影響を取り除いたときの電圧と電流の比なので、信号(電圧と電流)を伝える水路の幅と考えることができます。
絶縁層の厚さが同じプリント基板を例に説明しましょう。
図5に示す幅の広い配線は特性インピーダンスが低く、広い水路でイメージできます。一方、図6の狭い配線は特性インピーダンスは高く、狭い水路でイメージできます。
図7に特性インピーダンスと配線幅の関係を示します。
図5 配線幅の広い配線は特性インピーダンスが低い。広い水路は特性インピーダンス$Z_0$の低い配線に相当。広い水路は水の流れも遅く、特性インピーダンス$Z_0$の小さい配線上の信号スピードも遅い
図6 配線幅の狭い配線は特性インピーダンスが高い。狭い水路は特性インピーダンス$Z_0$の高い配線に相当。狭い水路は水の流れも速く、特性インピーダンス$Z_0$の大きい配線上の信号スピードも速い
図7 特性インピーンダンスと配線幅の関係(絶縁層0.5mm)
狭い配線は速く伝わる
一般的に特性インピーダンスが低い線路は、信号の伝搬速度が遅いです。特性インピーダンスが高い線路は伝搬速度も速いです。ただし、極端に特性インピーダンスが高くなると、逆に伝搬速度は遅くなります。信号の伝搬速度の関係も水路の関係と同じです。同量の水を狭い線路に流すには、流速を早くするのと同じです(図8)。
図8 特性インピーンダンスと信号速度の関係(絶縁層0.5mm)
特性インピーダンス=負荷抵抗のとき最高効率で信号が伝わる
インピーダンスを下げると伝わりやすくなる、とはならない
特性インピーダンスは電力を伝える水路幅を示しているので、広い配線、つまり低い特性インピーダンスのほうが電力を多く伝えることができるのでしょうか?確かに幅の広い水路のほうが多くの水を運べるので、特性インピーダンスも低いほうが多くの電力を運べるような気がします。
実際は、特性インピーダンスの大きさは関係なく、電力を供給したい負荷抵抗に一致していることが重要です。電力を供給したい負荷抵抗が50$\Omega$であれば、プリント基板の配線の特性インピーダンスも50$\Omega$のとき、負荷への電力供給効率が最大になります。
配線の特性インピーダンスと負荷抵抗が異なると、そこで反射が発生し、供給した電力が供給元に戻ってしまいます。広い水路に多くの水を流しても、負荷である水車の幅が水路より狭かったり広かったりすると、水が逆流して効率良く水車を回すことができないの同じです。
プリント・パターンの幅の不連続部分をなくす
図9に示すのは、特性インピーダンスが50$\Omega$の線路と70$\Omega$の線路を接続したときの反射波です。広い水路と狭い水路を接続した場合に相当します。
図9 50Ωと70Ωの線路を接続したの信号の流れ方。幅の広い水路と狭い水路を接続して、水を流したときと同じ。水路が狭くなる、つまり特性インピーダンスが高くなる部分で水(電力)が伝わり難くなり逆流する
広い水路を流れる水は狭い水路との接続部で水が流れ難くなり、その一部が逆流して供給元に戻ります。配線でも同じでように供給された電力が不連続部で流れ難くなり、正の反射波として供給元に戻ります。これは、負荷抵抗の場合も同様です。
図10に示すのは、特性インピーダンスが50$\Omega$と30$\Omega$の配線を接続した場合です。水路に、幅の狭い水路と幅の広い水路を接続した場合に相当します。
図10 50Ωと30Ωの線路を接続したの信号の流れ方。幅の世界水路と広い水路を接続して、水を流したときと同じ。水路が広くなる、つまり特性インピーダンスが低くなる部分で水(電力)が伝わり難くなり逆流する
図9とは逆に、水路幅が広くなる部分でより多くの水が流れるため、水かさが減り、その波が供給元まで戻ります。配線上でも同様に特性インピーダンスの不連続部で、負の反射が発生し、供給元まで伝わります。
特性インピーダンスの不連続部では、必ず反射波が発生し、全電力が供給できず、その一部は反射波として供給元に戻るため、特性インピーダンスは一致させることが重要です。
参考文献
[1] 池田 浩昭(日本航空電子工業株式会社)、[Webinar/Book/data]電磁界シミュレーションによるプリント基板設計&EMC対策、ZEPエンジニアリング株式会社
[2] Todd Hubing 著、櫻井 秋久ほか訳:デシベルから始めるプリント基板 EMC 即
答 200、ZEP エンジニアリング株式会社。
[3] 電子回路シミュレータ Qucs 公式サイト
[4] 加藤 隆志:5G時代の先進ミリ波ディジタル無線実験室 [Vol.2 反射の起こらない線路を作る]