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プリント基板での伝送線路の振る舞いと
インピーダンス・コントロール基板
1.電気信号はパターン上を波として伝わる
電気信号は、媒体となるプリント基板のパターンや同軸ケーブル上を送端(信号源側)から受端(負荷側)に向かって、光速より遅い速度(位相速度)で伝搬します。これら媒体に「ある長さ」があれば、その送端から受端にかけて、時間をかけて信号が伝搬していく「伝送線路」が形成されます。
プリント基板では図1に示すような構造のパターンが伝送線路です。何気なく普通に設計されたパターンも、それがそのまま伝送線路になります。ディジタル信号など信号変化が高速な場合は、このような何気ないパターンでも本稿で示す考えを適用していく必要があります。
伝送線路と聞くと「難しそうなモノだな」とか、「自分には関係ない」と思う方も多いかと思いますが、伝送線路自体は「信号を伝えるパターンや同軸ケーブル」であり、信号が高速化する最近のプリント基板設計では避けることのできない物理現象が生じるものです。多くの方にとって(潜在的にでも)必須な基礎知識といえるものです。
図1 プリント基板上で構成される伝送線路(この構造がマイクロストリップ・ライン; MSL)
プリント基板上で構成される伝送線路
プリント基板上で適切な伝送線路を実現するには、図1のようにリターン電流の経路となるパターンを、L2もしくははんだ面にグラウンド・プレーンとして構成します。
表面層L1(部品面)に信号パターンを配置し、信号伝搬方向で物理的形状が一様で変わらないかたちにすることで、伝送線路を実現できます。この表面層のパターンとグラウンド・プレーンのペアを「マイクロストリップ・ライン」と呼びます(プリント基板内層に信号経路を形成するものを「ストリップ・ライン」と呼ぶ)。以降はMicrostrip Line; MSLとして説明していきます。
ディジタル信号は波として伝搬していく
ディジタル信号がMSLを伝搬していくようすを図2に示します。立ち上がり時間100 psのエッジは1 nsごとのスナップ・ショットで見ると、受端に向けてA, B, Cと、まるで波が伝わるように電気信号として伝搬していきます。繰り返し周波数が高速でなくても、エッジ変化が高速であれば、このように信号を「波」として考えるべきです。
図2 ディジタル信号がMSLを伝搬していくようす(位相速度1.5×108 m/sで表記)
2.電圧と電流の「波」の相互関係が特性インピーダンス
電気信号である電圧と電流は、伝送線路を「波として」伝搬していきます。伝搬する電圧と電流の関係が「特性インピーダンス」です。
図3は伝送線路を電圧と電流の正弦波が伝搬していくようすを、ある時間でスナップ・ショットしたものです(厳密には電流は「密度波(ベクトル量)」になるので、このようなかたちとは異なるが)。
図3 ある時間でスナップ・ショットしたとき、伝送線路の各部分での電圧と電流の比はそれぞれ同じ、
つまり特性インピーダンスは「伝送線路のどの部分でも同じ」
電圧Vの大きさ(ピーク値)は1 V、電流Iの大きさ(ピーク値)は20 mAとしてあります。この電圧と電流の比
が単位を[Ω]とする特性インピーダンスZ0です。ある時間でスナップ・ショットしたとき、伝送線路の各部分での電圧と電流の比はそれぞれ同じになります。この場合、特性インピーダンスZ0は50 Ωです。
特性インピーダンスは50 Ωなどという抵抗値に相当する値で決まりますが、決して伝送線路中に抵抗があるのではありません。
特性インピーダンスと、伝送線路内の電圧と電流の振る舞いを正しく理解していないと、プリント基板上での信号伝送品質を低下させてしまいます。
3.特性インピーダンスは寄生インダクタンスと寄生容量からなる分布定数で決まる
特性インピーダンスの「電圧の波と電流の波の比」はどのように決まるのでしょうか。
長さのあるパターンでは寄生インダクタンスが生じます。また対向する信号パターンとグラウンド・パターン間で寄生容量が生じます。
長手方向でMSLの物理的形状が一様であれば、図4のようにMSLは一定の寄生インダクタンスと寄生容量が分布している状態となり、これを「分布定数」とよびます。分布定数は単位長で表されます。1 mあたりの分布インダクタンスをLD [H/m]、同じく分布容量をCD [F/m]とすれば、特性インピーダンスZ0 [Ω]は
として決定づけられます。
図4 MSLは寄生インダクタンスと寄生容量が分布している分布定数回路
MSLの特性インピーダンスを計算してみる
式(2)でMSLの特性インピーダンスZ0を求めることはできますが、実際にはZ0を直接求める式を用います。一例ですが
としてMSLの特性インピーダンスZ0を求めることができます(参考文献[1])。ここで、
なおここでは図1の図中と同じ記号を用いています。この式は近似式であり、いくつかバリエーションが存在します。
信号が伝搬する速度「位相速度」について
伝送線路内を信号が伝搬する速度である位相速度vpも、分布インダクタンスLDと分布容量CDから以下の式で決まります。
プリント基板では光速の60 %程度の速度になります。LDとCDの求め方は[1]の式(5.32),(5.33)と、本稿の式(2)を参照いただきたいとは思いますが、実際は「位相速度vpは、光速からだいぶ遅くなる」という理解だけで十分です。
4. インピーダンス・コントロール基板という選択肢
インピーダンス・コントロール基板とは、MSLなどプリント基板上の伝送線路が、指定した特性インピーダンスに適合するようにプリント基板製造メーカがパターン形成/製造を行い、品質管理したうえで出荷するプリント基板です。
ピーバンドットコムでは、サイト上に図5のようなインピーダンス・コントロール基板のパターン寸法を掲載しています[2]。この寸法で基板設計・製造指示することで、目的の特性インピーダンスをもつプリント基板が入手でき、安定した信号伝送を実現できます。
図5 ピーバンドットコムのサイトにある特性インピーダンスコントロール表[2]
参考文献
[1] Design Guidelines for Electronic Packaging Utilizing High-Speed Techniques, IPC-D-317A, The Institute for Interconnecting and Packaging Electronic Circuits
[2] ピーバンドットコム【プリント基板製造サービス】特性インピーダンス制御基板, https://www.p-ban.com/product/impedance.html